平成18年度は、研究計画の予定通り、以下の4点を実施しました。
開発するワークショップ型授業プログラム(自律型対話プログラム)において、授業のコミュニケーター(先生を想定)はどのような役割を担えばよいかのヒントを得るために、モデレーター、メディエーターから各自活動している場で、どのようにコミュニケーションを行っているかをヒアリングしました。その結果、モデレーターとメディエーターのスキルとして下記のようなことが明らかになりました(モデレーターの発言をモ、メディエーターの発言をメと略記)。これらは図1のような相互作用を促すスキルで、学生の主体的授業参加に欠かせないものです。
科学教育、学習科学、教育心理学、科学技術社会論、ADR(Alternative Dispute Resolution)などの研究/実践動向を文献調査し、科学技術リテラシーに関連した諸学問領域等が互いにどのような位置づけになっているかを「科学技術リテラシー研究領域マップ」にしました(図2参照)。
欧米における科学教育や学習科学といった領域では、80年代から90年代にかけて、話し合いを取り入れた学習が無批判によいものとして取り入れられていました。しかし、話し合いの学習効果は研究によってまちまちで、話し合いが功を奏するためには課題を上手に構造化することが鍵であると考えられています。このとき、科学技術に関するテーマは生徒にとって真に重要な問題を提供するので、科学技術をテーマに話し合い学習の効果を検討した研究が多く発表されました。
ただし、本プロジェクトが目的とする専門家と非専門家の話し合いを支えるコミュニケーション力そのものを育成する研究は、科学教育よりもむしろ言語教育系の研究や一部の教育心理学的研究、およびADR(Alternative
Dispute Resolution)のための調停者育成教材の制作・実践として行われており、現在の科学技術リテラシーが解決すべき課題として不可欠であることが明らかになってきました。
本研究提案の最終目標であるワークショップ型の授業設計にむけて、2008年度に行う対話収録実験ための収録設計を、モデレーターやメディエーターへのヒアリングを踏まえて練り直しました。研究提案申請時の計画では、対話能力の習得のための効果的な話し合いの構成要素(人数や司会者の有無、合意形成の有無等)の優先順位をつけるため、3〜4水準ほどの条件間比較実験を予定していましたが、今後設計する授業シラバスの概要について議論していく中で、司会者の有無と、その2条件の話し合いを個人が体験する順序による効果の差を検証することが重要であることを確認しました。シラバス設計に必須なこの点を考慮して、以下のように収録設計を見直しました。
[A:先条件] 進行役あり→進行役なし→進行役なし
[B:後条件] 進行役なし→進行役あり→進行役なし
[C:無条件] 進行役なし→進行役なし→進行役なし
なお、この収録データから、「良い話し合い」「悪い話し合い」のサンプルを抽出して、教師や学生への教材としても利用する予定です。
本研究提案の目標、研究計画、ワークショップやシンポジウムなどの開催予定、研究成果等を広く社会に知っていただくことを第一目標に、このプロジェクトホームページを開設しました。ドメイン名を覚えやすくするため、プロジェクトの通称をLearning
Science for Science Learning(科学学習のための学習科学)とし、その略称、LSSLを採用しました。また、当該領域に関連する用語集を充実させていくことで、より多くの人がサイトを訪れるように工夫しています。