本プロジェクトが,最終年度を迎え,「ワークショップ型授業『自律型対話プログラムver.1.0』」の完成も間近になりました.
そこで,プログラムを広く知っていただいて,興味のある方々に使っていただけるよう,「対話ノススメ」〜自律型対話の実践力を
はぐくむ大学教育〜と題して,研究成果シンポジウムを,2009年8月9日,芝浦工業大学芝浦キャンパス801・802教室にて,開催しました.
日曜の遅い時間までという日程にも関わらず,大学関係者のみならず,企業や研究機関,大学院生から一般の方まで,
計100名の方に参加いただきました.中には九州や東北など,遠方からもお越しいただき,対話力教育への関心の高さがうかがわれました.
改めてご参加いただいた皆様に心よりお礼申し上げます.
以下に,当日の報告ならびに,シンポジウム時間中にはお答えできなかった皆様からのご質問の中から
多かったご質問に対してお返事させていただきます.
シンポジウムは,プログラム紹介,プログラム体験,実践報告を主とする第一部と,
パネリストをお招きしての,パネルディスカッションを主とする第二部の二部構成で行われました.
プログラム体験中の様子 |
司会はメンバーの山内さん(阪大CSCD)がつとめました(当日は,対等に意見が言い合えるよう,「さん」で呼び合うことをルールとしていました).まず,プロジェクト代表である大塚さん(IBS)が,プロジェクトの概要について説明し, 森本さん(関西学院大)が「自律型対話プログラム」について紹介しました. 続いて,鈴木さん(広島国際大)の進行による,フロア参加者のプログラム体験を実施しました(右写真はその様子).この企画では, 参加していただいた方全員に,プログラムの中核とも言える,ディスカッションの観察および「診断シート」を使った評価を, 大学生による話し合いのビデオデータに対して行ってもらいました.後のアンケートには,「観察」よりも「参加」の体験を したかった,という声もありましたが,時間の関係もあり,質の異なる二つの短いビデオを閲覧,評価活動を体験していただきました.
休憩後に,水上さん(NICT)が,診断シートの評価指標の作成過程について解説したあと,質問の時間を設けました.
質問と回答の要旨は以下です.
Q1:なぜ,評価指標を作成する際に(理想とすべき話し合いのデータを分析せずに)学生のデータを使ったのか.
A1:大学生のデータに基づいているからこそ,学習者である大学生から乖離しない指標になっている,という点と,指標を作る段階で,分析者である
我々メンバーの観点が入っていることで,ある種の客観性を補っている.
Q2:6人という少人数における対話力を対象としているようだが,50人,100人いる中での対話力も求められているが,そのあたりは考えているか.
A2:授業としては50人規模,100人規模の授業も試行実践しているが,5〜6人のグループを基本単位としている
(50人,100人をグループサイズとして考えた設計は考えていない).
実践報告 |
続いて,自律型対話プログラムのモデルシラバスあるいは一部モジュールを,授業内で実践してきた,四大学の教員(岩倉さん(芝浦工大),
安居さん(室蘭工大),渡邉さん(成城大),竹内さん(大阪電通大))による,授業実践報告が行われました.いずれの実践も,専門の教科に有機的に
プログラムを導入していただいて,それぞれに効果をあげてくださいました.
その後,体験プログラムでで記入いただいた,診断シートの集計結果を,記入された一部のコメントとともに,鈴木さんが発表しました. おおまかな評価としては,二つのビデオクリップの質的な差が評価にも現れたと言える一方で,おひとりおひとりが,さまざまなとらえ方を されていることが,大変興味深く思いました.例えば,二つ目のクリップは,発言と発言の間があきがちで,議論が停滞気味に感じられる場面 だったのですが,その間の「沈黙」には議論において重要な意味がある,と考えられ,高く評価された方も少なくありませんでした.
パネルディスカッションの様子 |
第二部のパネルディスカッションでは,さまざまな背景をお持ちのパネリストの方々に,それぞれの観点で, 「大学で育成すべきコミュニケーション力とは何か」,「プログラムを広めるためにはどのようなことが必要か」というディスカッション テーマに基づいて,ご自分の立場や経験を踏まえながらコメントいただいたうえで,それにメンバーが応え,また,フロアも巻き込んでの 議論となりました.アンケートにも数多くの方が,とても面白いパネルディスカッションであったと書いていただいていましたように, 有意義な時間を持つことができました.この詳細については,別途,パネルディスカッションの記録として,報告の機会を設けたいと思います.
パネルディスカッション中のフロアからの質問および回答は以下です(質問,回答の順序は前後しています).
Q1:相手を楽しませる,ということがコミュニケーションにおいては重要だと思うが,評価の観点には入っていないのではないか?
A1:相手を楽しませようとする行為は「議論の活発さ」の指標に関わる.ただし,たとえば,深刻なテーマを話しているときに「笑い」によって盛り上がることが,不適切である場合もある.その意味で多分に状況に依存する.
Q2:このプログラムの対象は大学生だが,ニーズとしては社会人にもある.そのための評価指標開発は考えているか.
A2:対象が変われば,評価指標も変わるであろうことは,自分たちの先行研究からも示唆されている.時間もお金もかかるが地道に積み上げていくしかないと考えている.
Q3:7つの評価指標は,並列なものではなく,階層的な相互関係性があるように思える.
A3:階層性があることは認識しており,おおよそ三つのレベルがあると考えているが,それを二次元のチャートの形に反映すべきか,どういうふうにすればよいかは検討中である.
Q4:このプログラムは,個人の能力を向上させることを目的としているように感じるが,むしろコミュニティー,場の形成が重要ではないか.
A4:成績評価に関連して,個人の能力への言及は避けられず,課題となっているが,評価活動自体は個人に対してではなく,むしろグループ全体を評価し,グループに貢献することを重視している.
Q5:近年の学生たちは,プレゼン型授業に慣れていて,過去の知に対するリスペクトがなく,上辺だけのプレゼンで満足している.
より,問題の本質を突き詰めようという姿勢はいかに身につけさせることができ,このプログラムではどう考えているのか.
A5:専門知識の学習という意味では,テーマの選択から,プログラム後半のプレゼンフェーズまでを通して,段階を追って,テーマについて深く知り,考察を深めることができるようになるようデザインされていると考えている.
Q6:笑いの話にも通ずるが,実際の実践の中で,共感や理解を示す,具体的な技法についてはブラックボックスになっているようだが,どう考えているか.
A6:具体的にこうすればよい,という方法論を教えることは,ある種の答を教えることになり,積極的には推奨していないが,発見シートは,いくつかの例を挙げる形でそれに近いことをやっている.
当日のプログラムは,我々がお伝えしたいこと,感じていただきたいことが山盛りでしたので,分単位のスケジュール
になってしまい,フロアからのご質問を受ける時間が十分にとれず,中には消化不良の参加者もいらっしゃったかもしれませんが,
無事,シンポジウムを進め,終えることができました.
以下は,当日のアンケートにお答えいただいた方による,シンポジウムの評価です(有効回答数は57でした).
とてもよかった.16名(28%)
よかった.24名(42%)
まあまあ.13名(22%)
物足りない.3名(5%)
期待はずれだった.1名(2%)
また,以下は,アンケートに記入いただいた,多かったご質問に対する回答です.
Q:他実践法と比較してどうすぐれているのか?
A:他の手法との実証的比較は困難です,このプログラムの有効性を示す方法論として,現在アクションリサーチ(実践による検証)によって知見を蓄積しておりまして,その知見を踏まえてよりよいものに改善していくことが重要であると考えています.
Q:パッケージはいつできて,どうやって入手できるのか?
A:プロジェクト期間(2009年度11月末)終了後,当HPにてお知らせします.
Q:大学教育以外の場でこのプログラムは利用できるのか?
A:このプログラムは,大学教育向けに作っていて,それ以外の場での利用検証は行っていません.今後の応用の可能性については,皆さんと議論していければと考えています.
Q:英語版は作りますか?
A:現段階では計画はありません.
Q:教員が誰に対して、どんなタイミングでどんな風に働きかけるべきなのか、具体的な工夫についてもっと知りたいと思いました。
A:これまでの実践で得られた教訓,教員の学生への対応姿勢などは,教員マニュアルに盛り込む予定ですが,あらゆる状況に対応するだけの知見はこれから蓄積,共有していけるような方法を考えていく予定です.
Q:科学技術リテラシーとの関係性がよくわからなかった
A:トランス・サイエンスをテーマとして扱うことが,このプログラムの特徴ですが,そうではないテーマを扱った,科学技術リテラシー領域以外の場でも利用できると考えています.
Q:7つの指標で学生の議論能力を評価できるのですか?
A:7つの評価指標は学生に気付きを促すための道具であり,学生自身は,これらを観点として用いて評価活動を行いますが,その能力を測定するためのものではありません.
Q:このプログラムを使った授業を受けた学生の反応は?
A:例えば,ある大学で学生に実施したアンケートでは,9割以上の学生が「コミュニケーションに関する気付きを得た」と実感したと答えたうえで,「お互いの意見の尊重を考えた」「意見を正確に伝えることは難しいと感じた」「聴き方にも気を使う必要があると感じた」「通年でもやりたい」「良い刺激になった」「周りにも目を向ける必要があると感じた」「意見交換の重要性を感じた」などの意見がありました.
Q:既存のどのような授業にも,このプログラムは導入可能なのか?
A:全ての授業に対応できるかどうかはわかりませんが,本プログラムはモジュール形式になっておりますので,各モジュールは部分的に導入することもできます.
プロジェクト最終年度の今年度も,メンバー外の教員による,いくつかの授業実践を含めて,複数の実践を行っています.上記の回答でも述べましたが,プログラムは皆さんに使っていただいて,知見を積み重ね,よりよいものに改善していくことが重要であると考えています.そのために必要な基盤づくりも,していきたいと考えています.詳しくは当HPでお知らせしていきます.
最後に,参加していただいたみなさま,パネリストや報告者のみなさま,関係者のみなさまに,改めて感謝申し上げます.本当に,ありがとうございました.(プロジェクトメンバー一同)